ネオキの会12月例会記録
「海兵隊にさよならを」
スピーカー:佐藤学・沖縄国際大教授
佐藤学:なぜ海兵隊がいま問題になっているか。
普天間基地は海兵航空隊の基地。
海兵隊というのは航空部隊と陸上部隊と補給部隊から成り立っている。
米軍の中でどういう役割を果たしているか。
最初に海兵隊ができたときは、海軍の船に乗っていって、戦争をする、敵地に最初に攻撃を仕掛ける。
これは1700何十年、海兵隊ができたときから。
基本的には最初に突っ込んでいく部隊。
海兵隊になぜ航空部隊があるのか。
海兵隊の売り物は一つの軍隊に陸上と航空部隊の両方があること。
空軍と陸軍、海軍の3軍が相互に連携をとって戦争をするというのは実は大変難しい。
それぞれの開発してきた通信、兵器のシステムが別になっていて、戦争を行うときは軍内部での主導権争いのようなこともある。
海兵隊のウリは、それがない。
航空部隊と陸上部隊が連携して戦えることが海兵隊にとって重要な要件。
普天間は航空部隊の訓練をする飛行場。
ベトナム戦争のときは、ここから直接出撃したそうだが、いまは航空隊の訓練。
沖縄にはもう一つ、陸上の部隊があるが、それは北部訓練場でジャングル戦闘訓練をやっている。
ヤンバルの林の中に、渡川作戦みたいなことをやる、ベトナム戦争のときみたいな泥水の川なんかをつくったりして、それを渡って攻めるとか。
あるいは途上国の村落のようなものをつくっていて、その中でゲリラ掃討戦をやる訓練なんかをしている。
では、海兵隊の役割は何か、本当に沖縄に要るのか。
2~3日前に、岡田外相が「海兵隊は抑止力として日本に必要だ。沖縄に置くのが一番よい」という趣旨のことを言った。
それから、拓殖大学の川上高司教授という方が、金曜の夜にNHK沖縄の番組でそういう発言をされ、新聞でもそういうことを書かかれていたそうだ。
そこで、「抑止力」とは何か。
潜在的な敵国があって、それがこちらに対して何かやってきたら、倍返しで戦えるという恐れが相手にある場合に、これが戦争を起こす、あるいは攻撃を起こすことに対する「抑止力」になる。
冷戦時代にアメリカとソ連が核を持って対立していたときは、片方が核攻撃を行えば、もう片方がそれに倍加する攻撃力で反撃してくると。両方でそういうことをやって、人類を30回滅亡させられるような核兵器が蓄えられた。
大陸間弾道弾とか、潜水艦が打ち上げるミサイルとか。
基本的には、相手に攻撃をされない形で。
相手の攻撃でやられてしまったら、「抑止力」にならないので。
だから潜水艦に核ミサイルを積んで、常に世界中を回っていた。
70年代にアメリカの潜水艦が音を消した。
ソナー等で探知できない。
原子力潜水艦は長期間、浮上しなくて済む。
ディーゼルの頃はエンジンを動かすのに空気が必要なので浮上しないといけなかった。
敵が察知できないところからミサイルを撃つので、相互に破壊能力を保証する。
冷戦時代には「抑止力が効いて」ということになっているが、核戦争は起きなかった。
やや脱線するが、麻生首相の頃に昨年、アメリカに対して小規模核兵器の開発を進言した、という記事が最近出ていた。
どういうことか。
実際に使える、ということが「抑止力」。
ところが、アメリカが大規模な核兵器をいま使えるか。
一発落として何万人の非戦闘員、市民が死ぬような兵器を、かりに報復としても使えるか。
使えないのではないか、大きい核兵器をアメリカがいくら持っていても意味がない。
もはや「抑止力」に使えない、「抑止力」にならないんじゃないかという理屈になっている。
たとえば北朝鮮がアメリカに向かってミサイルを撃つとする。
それに対してアメリカが本当に北朝鮮にミサイルを撃ち返して、北朝鮮を絶滅させるかということを考えると、あまりないかもしれない。
そうすると、核抑止がそもそももう成り立たない。
というような話の中から、アメリカでいま話が出ているのは、ブッシュ政権の頃から、小規模で、使える核兵器をつくる。
たとえば、敵の重要な軍事施設を叩く、というときに通常爆弾でもできるが、そうとうたくさん撃たないといけないし、ピンポイントでないといけない。
それを核兵器であれば、ピンポイントでぶつけなくても、相当地域、国一つ都市一つではないけれども相当に広い地域を完全に破壊することができる。
ということでアメリカの中では、「抑止力」としての小型核兵器をつくって、これが本当に使えるんだという脅しを打ち立てないといけない、という議論がある。
オバマ大統領はそれとは別な立場にいるが。
要するに、軍事的な話の中では、使えなければいかんというのが「抑止力」の考え方。
そうすると、海兵隊が「抑止力」として日本にいる、という場合には、海兵隊がいることによって抑止できる侵略、あるいは日本に対する攻撃があるということを想定しないといけない。
海兵隊は大規模な艦隊を持っているわけではない。
大規模な爆撃機や戦闘機を持っているわけでもない。
そういう軍隊ではない。
海兵隊が行う戦争というのは、たとえばイラク戦争のときに最初に海兵隊が入っていく。
最初に海兵隊が攻めていくことが必要な戦争が日本に対して起こされる、それに対して「抑止力」として使えるということになる。
ところが、日本に対する「脅威」というのは、いま専ら言われているのは、北朝鮮の核兵器、ミサイル。
東京に対する核攻撃であると。
もう一つは、中国が尖閣諸島を獲りにくるのではないかと。
もう一つは、中国の軍事作戦、中国がやるかもしれない戦争として、可能性が低いにせよその中で一番可能性が高くて深刻なことになるのは台湾。
台湾がもし独立を宣言するというようなことになったときは、中国が武力で「解放」、武力で占領しにくる可能性があると。
3~4年前に、アメリカで中国脅威論というのが流行ったが、そのとき出た議論では、アメリカと中国がその時点でもすでに、もう戦争できる状態にない。
経済的な依存度が高まっている、それからますます高まっている。
だから、まずないのだが、それでも可能性があるとすれば、台湾の武力占領。
そうすると米中全面戦争になりかねないと。
という恐れがあるというのが、唯一可能性があることとして言われている。
それで、沖縄の海兵隊がこれらの「脅威」に対して何ができるのか。
北朝鮮の核ミサイルに対して、海兵隊は何もできない。
北朝鮮に沖縄から海兵隊が出張っていって、侵入作戦をして、核ミサイルを壊すとか、そんなことできるわけがない。
それは、ありえない。
あるいは北朝鮮が核ミサイルを撃ったとして、それを沖縄の海兵隊が撃ち落せるか。
沖縄にPAC3が配備されたが、あれは嘉手納基地を守るためのPAC3。
北朝鮮は東京にミサイルを撃つでしょうから、沖縄にあっても意味がない。
そもそもアメリカのミサイル防衛システムというのは、北朝鮮がもしもアメリカにミサイルを飛ばしたら、それを途中で撃ち落すためにアジアにも配備するという話。
詐欺まがいだが、日本を守る、あちこち守るというが、結局アメリカ本土に遠くの国からミサイルが飛んでこないように、途中で撃ち落すための防備。
さらに脱線。
20年ほど前にレーガン大統領が、スターウォーズ計画。
ソ連から飛んでくるすべてのミサイルを撃ち落す技術を開発する、と大風呂敷を広げたことがあった。
ソ連が大陸間弾道弾を全部アメリカに撃ったときも、ぜんぶ撃ち落す。
技術的にも無理だったし、ありえない話だった。
今度いまブッシュがあちこちに売りつけようとしていたのは、北朝鮮とかイラクとかが1発2発持っていたとして、それが北米に到達する前に撃ち落す、ダメなら本土でも撃ち落す。
しかし、この迎撃ミサイルというのがなかなか当たらない。
なので、ミサイル防衛システムというのはあまり当てにならない。
それで、沖縄に海兵隊を置いておいて、軍事的な観点から、その海兵隊が抑止できる「脅威」というのが今あるかというと、今のところ現実的なものとしては考えられていない。
もう一つ、テロ。
テロリストが来るよ、という話がある。
海兵隊はイスラム教ゲリラに対して戦争を起こせる、フィリピンのゲリラに対してできるという話がある。
しかし、ゲリラ、テロリストに対する掃討戦というのは、どこに敵がいるか分からないから難儀するわけだ。
正規軍としての海兵隊が攻め込む先が分かっているなら、苦労はない。
ビンラディンを捕まえられないのは、非正規の軍隊だから。
ネットワークをつくって、隠れている。
こういうものに対して、海兵隊がいたからどうなるものでもない。
また、政治的にもしも日本がイスラムゲリラの対象になるとするなら、それはむしろアメリカが何かやろうとすることに対して、あるいはアメリカが何かしたから、イスラムゲリラが日本に対してぶうぶう言うことになる。
イスラム過激派だけではないけれども、もしも蓋然性が高いとしたら、イスラム過激派への「抑止力」として海兵隊を日本に置いておく、というのもこれまた意味がない。
だから、海兵隊が日本にいることが「抑止力」として必要だ、というのは、何を抑止するのか、どのような軍事的な事態を想定して、それに対して有効だという話になっているのかは、現に言わないし、言えない。そこには誤魔化しがある。
聞き手:「海兵隊の抑止力」というのは、久しぶりに話が出てきたというか、ようやく焦点になってきた。
95~96年ぐらいに、いっぺん「海兵隊はいらないんじゃないか」という話が出たが、結局は普天間の「移設」の話になって、しばらく海兵隊の話は出なかった。
今回ようやく出てきたが、まだ岡田が「海兵隊は抑止力」と言っているきりで、その「抑止力」の中味の話まで突っ込んだやり取りがされていない。
ほとんど中味が出てきていない。
昨日のNHKで川上教授が若干口走ったのは、「北朝鮮、台湾有事のときに、在留米国人の救出にあたる」とか「尖閣にどこかのゲリラが上陸したときにやっつける」とか、はては「インドネシアの津波の救援に駆けつける」とか、そのぐらいしか出てこない。
北朝鮮ならば、米国人を救出するのは「抑止力」とは言わない。
これは「抑止」の話ではない。
尖閣諸島は、上陸してもやることは旗を立てるぐらいしかないので、そんなに急いで奪還する必要はない。
日中の全面衝突にエスカレートしないよう、政治交渉を先行させて、まず海保が対応、どうしようもなければ海自が対応するという順序になるわけで、初動でアメリカが乗り出して海兵隊を投入し、敵を殲滅するという選択肢は存在しない。
与那国に上陸したら、という話もあったが、これはまずありえない日中の全面戦争であって、想像すること自体が難しいが、万一あったと仮定しても、そのときに沖縄にいる海兵隊の2000人ぐらいの実戦部隊で何かができる状況はない。
もしも日中間で徐々に政治的な緊張が高まってきて、一触即発かもしれないという状況が生まれてきた場合には、前もって陸海自衛隊の南方配備を固める準備期間が十分にある。
そうではなく、本当になんの兆候も前触れもなく、ある日突然、与那国を占領するのであれば、そのときの日本国内には日中全面戦争に入る気構えも態勢もないわけで、すぐに軍事的に奪還するという選択肢はこれまた存在しない。
ましてや初動で米海兵隊が参戦したら、これはもう第三次世界大戦なんで、与那国どころの話ではない。
こんなようなことは中国だって分かっているので、尖閣・与那国には海兵隊の「抑止力」は特段効いてない。
唯一あるのは、台湾有事の際の米軍の「足場」ということ。
在沖海兵隊の2000人の実戦部隊だけで何十万人の人民解放軍に対して何かができるわけではないが、嘉手納の空軍や第七艦隊との作戦連携の一環として米国人救出を担うというような程度で「抑止力」の一環をなしているという説明がありうるのだろうが、それはやはり米国と台湾にとっての「抑止力」であって、日本にとってのものではない。
沖縄に犠牲を強いてまで提供するほどのサービスではないわけで、米国には別の方法を考えてもらうしかない。
第一、この台湾有事も、電撃作戦で起こせるものではなく、相当に周到な準備の期間を経てのものにならざるを得ないわけで、そうしている間に米国も周辺への展開に使える時間が十分にある。
沖縄から海兵隊が慌てて出撃する局面は、やはり想定しにくい。
海兵隊が前線を下げることで、中国に「誤ったメッセージを送りかねない」という主張が従来あるが、メッセージの読み方を先方に伝えれば終わる話だ。
それぐらいのコミュニケーションができない米中関係ではない。
インドネシアの津波は、グアムから行った方が早い。
当然ながら、津波救援は「抑止力」とは関係がない。
ということで、まったく海兵隊がいる意味がないわけだが、ほかに何かあるんですかね。
佐藤学:軍事的な意味での「抑止力」というのは、無理だ。
理屈が立つわけがない。
ただ、アメリカに対して、米軍が去らないために、安心のために「いてください」と。
それで一応、目に見えるのは海兵隊だから、ということに尽きる。
そういう政治的な道具として、沖縄の海兵隊というのが、アメリカが「日本を離れない」あるいは「日本を見捨てない」というシンボルとしていてほしい、そんな話だと思う。
軍事的な「抑止力」という話ではない。
そうだとすると、本当にそういった意味で、期待されているような政治的な意味があるのか。
沖縄に海兵隊がいることで、アメリカが中国よりも日本を大事にするとか、これからもずっと日本をかまってくれますとか、そういうことになるのかというと、これは話が違う。
辺野古の基地を貢いだところで、それがどうなるということではない。
聞き手:この年末にかけて、普天間をどこに移すんだ、という話をぐちゃぐちゃとやっていて、宜野湾市が「グアムへ全部移る」と言って、政府はそれを否定している。
アメリカ側は「2006年の日米合意を守れ」と言っているということに新聞上はなっているが、どうもそうではない。
「日米合意」というときに、グアム移転に金を出すことが合意の核心と考えるのか、辺野古に新基地をつくるのが合意の核心であると考えるのか。
日本の新聞は後者なんだが、そこは理解がすごくずれているところがある。
アメリカ国内のメディアなり政府はいま、何を考えているのか。
佐藤学:3~4日前、朝、みのもんたの番組を観ていた。
ニューヨーク特派員という人が出てきて、みのもんたが「辺野古を先送りしたことで、アメリカでは相当反響があるんじゃないですか」と聞いたら、「いや、一般の記事にはそういうのは出てきません」と。
そんなの当たり前なんだが。
もう一つ、「小沢さんが中国に600人連れていった。これもアメリカでは相当懸念を呼んでいるんじゃないですか」
「いや、そういう記事もない」と。
でも、米政府の中の日本専門家の皆さんは大変、懸念してますと言って、紹介したのはたしか海兵隊の総司令官の話。
日本で見ていると、アメリカの社会、アメリカの政府というものが、「辺野古のことで物凄く怒っている」という報道がどんどん来るんですが、これ、嘘。
ぜんぜん、嘘ですから。
いまアメリカで、外交軍事問題での国民の頭は、アフガン戦争でいっぱい。
アフガン戦争に今度、3万人増派するが、それがどうなるのかで頭いっぱい。
それから、イラクから来年いっぱいで撤兵することになっているが、本当にこれができるのか。
またアフガニスタンにいつまでいるのか。
いつまで、について今、言を左右にしている。
アメリカ人の中では、とにかくこのことで外交問題としては頭がいっぱい。
内政問題では、金融危機以来、経済で大変なことになっている。
日米関係がどうこうというより手前で、中国の経済がこの後どうなるのか、中国との商売がどうなるのかが遥かに重要な話。
アジアの問題といえば、中国との経済関係が最大の話。
そうすると、アメリカで「日米関係の危機」というのは、何の話かよく分かんない。
日本のメディアの人たちは、誰に話を聞いているのか。
沖縄タイムスの偉い人が、東京の新聞の人と話していて、あんたたちの書く「政府高官」とか「日本専門家」が誰かって、全部名前言えるよ、と言ったそうで。
誰がこう言っているのか全部分かると。
要するに、決まった人からしか取材していない。
その決まった人の一番偉いのがアーミテージって人で、奥さんは日本人。
この10何年間、この辺の政策をやってきた人。
アメリカの政府ってこれまた、人がしょっちゅう代わる。
政権が変わると、上の方は全取替え。
クリントンからブッシュに変わるときで、8000人代わった。
役所の上の方は、全部代わる。
鳩山さんが今、難儀しているのは、外務省、防衛省が変わらないから。
外務省、防衛省の人は、自分たちの既得権、利害があって、それが優先。
そもそも鳩山政権がいつ潰れるかも分からない、という判断をしていれば、ますますこんな総理大臣に仕えたらえらいことになると。
自民党に戻ったらえらいことになると。
自民党は自民党で、外務官僚、防衛官僚を使いこなせていたかというと、それまたぜんぜん違う。
この辺は、日本の役所、官僚が政策立ててやってきたことに、御輿の上に担がれた大臣が政治的な正当性を与えているだけ。
その辺は、日本で考えているのと、アメリカはぜんぜん違う。
その中で、外交を司る国務省は、めずらしくキャリア、外交官として採用されて将来もすっと外交官をやる人たちが、アメリカの役所の中では異例なほどいる。
この人たちは、言葉ができないといけない。
非常に能力のある人たちを雇って、外国語がペラペラ。
日本の専門家は当然、日本語がペラペラ。
ケビン・メアという沖縄にいた方は、博多の山笠で褌で水かぶって7年かついだのが誇りの人で、日本語ペラペラ。
奥さんも日本人。
80年代から大学院で日本のこと勉強してきた人。
だから、沖縄のことは自分の方が、沖縄県民よりもよく分かっていると、本気で思っている。
「沖縄の県民は、よくない沖縄の新聞に毒されている。沖縄の人たちに、沖縄にとって本当にためになることは何かを、自分たちが教えないといけない」と本気で思っている。
そういう人たちがゴロゴロいるのが国務省の日本部。
この人たちが今どうなっているかというと、先行きよくないというか、気の毒な立場。
英語を母国語とする人が日本語を勉強するのは、とんでもなく難しいこと。
国務省では外国語の難易度によって、手当が違う。
日本語とアラビア語が一番難しい分類。
それをあそこまでできるようになったのは、すごいこと。
それで日本政策にずっと関わってきて、自分たちが作ってきた。
要は、辺野古に関しては、自分たちが決めたことだという意識がすごく強い。
でも、もうアジア政策の中では、日本の部分というのは、これから誰がどう頑張っても、日本の人口が減っていくことと経済が縮小していくことは間違いない。
中国経済がこのままどんどん発展していくとも思わないし、今のままの成長戦略を続けられるわけはないが、中長期的には中国経済が大きくなることは間違いない。
そうすると、どっちが重要かという話になると、間違いなく中国に決まっている。
90年代から、アメリカで日本への関心がなくなってしまった状況をこの目で見てきた。
そうすると、ケビン・メアさんたちの危機感はよく分かる。
彼にとって、今は一生懸命、自分たちの証として、辺野古をつくるということで。
また、日本をこれまでと同じような立場に置いておくことというのが、彼らにとっては、個人的な、保身というよりプライドの問題。
仕事への思いみたいな話に絶対なっている。
そんなこと絶対に言わないだろうけれど、これは間違いない。
そうすると、彼らに話を聞きにいけば、「辺野古でなければ大変だ」「日米関係が崩壊するよ」って言うに決まっている。
これは、ダムを造るべきかという話を、国交省のダム担当の役人だけに聞きにいって、「このダム必要ですか」「必要です」とそればかり書いているのと同じこと。
この問題に関して、アメリカ政府の中で話せる人、要するに知識を持っている人が限られてしまっているから、この人ばかりとなる。
もう一つは、大変失礼な言い方をすれば、日本語で話してくれるから。
日本語で取材できると楽チン。
英語だととても大変。
トッフルで高い点をとって向こうに行っても通じない。
実戦的に英語で取材して回るのはなかなか難しい話。
だから、取材源が限られてしまう。
ということで、日本に入ってくるアメリカの話ってのは「辺野古で怒ってます」ということになる。
聞き手:ケビン・メアさんは、アメリカ大使館時代、再編のころに安保課長かなんかでV字案をつくった人。
それで、沖縄へ来て。
彼は、辺野古沿岸、V字案ができると、本気で思い込んでいた節がある。
最初は外交辞令というか、はったりなんだろうと思っていたが、「ノープロブレム」「ノープロブレム」と、本気で信じているみたいだった。
選挙のたびに、沖縄県民・市民は、容認する首長を選んでいるし、順調に進んでいる、と。
しかし、これは外交官として、能力が乏しいんじゃないかと思った。
本気で信じているんだとしたら。
そういう安易な報告をしてきたツケがいま来ていて、彼は責任を問われるわけ。
大丈夫、大丈夫と言ってきたものが、破綻しているわけで。
自分でも、どうしてダメだったのか理解できていないと思う。
その意味では、あまり同情しないが。
佐藤学:メアという人は、辺野古に行くと、そのたびに石を投げ込む。
一日でも早く埋め立てが進むように、石を投げるんだと。
ほんとに言う。
沖縄県民は、最終的には私たちの沿岸案を支持するんだ、と。
前のトーマス・ライクという総領事も、同じようなことを言っていた。
聞き手:彼らは、異なる原理で動いている政治ってのを理解するのが本当に苦手なんだと思う。
だからベトナムで負けるし、中東で泥沼にはまるわけだが。
そんなアメリカだが、一方で日本の話。
昨日の琉球新報で佐藤優さんが「自分は鳩山政権の『越年』を見越していた」と。
「大メディア、大新聞は見方が浅い」と。
要するに、大新聞・テレビってのが、ぜんぜん何も読めてなかったということ。
政権が発足してからの展開がどうなるのか、というのを見通す能力が低かった。
世の中で、彼らの頭の中だけは政権交代していない。
実際、鳩山政権が何を考えているのか、はメディアが伝えないのでよく分からないが、どう転がしていこうとしているのか。
佐藤学:これは分からない。
なぜ分からないかというと、メッセージが伝わってこない。
鳩山さんはこの問題で何をしたいのかということをちゃんと言っていない。
これは大変、大問題。
小突き回されたけれども、土俵を割りませんでしたみたいな。
アメリカから小突かれて、日本の新聞に小突かれて、でも何とか越年という。
何をしたいのか、いまどういう状況なのかが伝わってこない。
12月15日に「政府方針」というのが決定された。
こんなのは政権が発足してすぐやるべき話であって、3ヶ月間も岡田外相には「嘉手納統合案」とか言わせたり、北沢防衛相は初めからずっと「辺野古つくらないといかん」とか、こんな馬鹿な話はない。
外交をなめているのではないか。
閣内で主要な担当の大臣が勝手なことを言っている状況を3ヶ月続けてしまった。
これで交渉できるわけがない。
あれは何考えていたか分からない。
おそらくはガス抜きをして、最終的には辺野古という話を考えていたのかもしれないが、その間に沖縄の世論がどんどん。
だって、総選挙の結果というのは大きいわけだから。
2005年に小泉さんが「辺野古以外の県外」をいくつか打診してダメでした、だから辺野古ですと。
同じことをやろうとしたなら、とんでもない間違い。
アメリカと交渉するに当たって、こんな馬鹿なやり方はないだろう。
交渉相手が日本専門家でなくたって、これでは交渉できない。
何をしたいのか分からないわけだから。
何で辺野古ではダメなのかという話では、アメリカに通じる言葉がある。
人権の問題である、環境の問題であるという。
実務家レベルではダメだが、政治的な判断をするところにちゃんと伝えれば。
オバマ来日が鍵だった。
その時点で、鳩山さんがオバマ大統領にきちんと言えるようになっていれば。
辺野古を造ることが、オバマの利益にならないと。
辺野古をやめるのが、オバマのためになるんだと。
ということを言えば、通じる。
話の持っていき方が違う。
最初に大きな話をしてみせて、東アジア共同体とか、核兵器を先制攻撃に使わないようにと言いに行ったりした。
鳩山論文なるものが、反米とか書いていないが、新しく総理大臣になる人間は「反米だ」みたいに広がった。
最初から躓いている。
アメリカの政府はそれをつぶそう、これまで通りにやれと圧力をかけてきた。
それでこんなことになってしまった。
本当に拙劣。
準備なし。
外交防衛に関して、何考えているんだお前ら、という気がする。
大きな理由は、官僚が全部同じ人たちがやるということ。
もう一つは、次の内閣を民主党がつくっていたが、防衛大臣も外務大臣も、次の内閣で準備していた人たちは、就いていない。
本当は、野党である間に、これはイギリスのやり方だが、政権をとったときはこの人が政策つくりますという「次の内閣」という仕組みが全然機能していない。
だから、用意ができていなかった。
聞き手:用意もないし、実際に進める布陣もないが、おそらく鳩山さんのイメージの中では、寺島実郎さん的な路線。
「常時駐留なき安保」ではなくて、「駐留の少ない安保」みたいなものがある。
それで、来年の安保50年に向けて、同盟を「再々定義」みたいなことの中で、駐留実数の削減みたいなものを、憲法改正も視野に、自衛力の増強あるいは米軍との連携の深化みたいなものと抱き合わせにして進めようというイメージはあるのだろう。
けれども、それを進める具体的なタクティクスが全然見えてこない。
佐藤学:自民党の政権のころに、自衛隊を強くしていく路線が一つ。
それをどんどんやっていくと論理的には日米安保解消。
もう一つは、自民党がずっとやってきたアメリカにとにかくひたすらついていきますという路線。
岡崎久彦という外務省OBの外交評論家で大御所。
この人が『中央公論』7月号で言っていること。
日本にとってのの国家戦略、国家の大計とは何か。
それは、日米同盟の維持である、と。
日米同盟を維持することが日本の国家戦略で、それが大目標で、それ以外いらないと。
おそらくこれが外務省の考え方として主流なんでしょう。
もう一つは、自民党はそもそも憲法改正するためにつくった政党。
そうすると自主防衛みたいな部分もある。
その両方があって。
安倍さんというのは、もともと自主防衛派だったはずなんだが、アメリカに行って慰安婦
問題で怒られて、立場を変えて帰ってくるみたいなことがあった。
それでその路線はややポシャった。
グアム移転協定みたいなあまりに不平等な協定を結ぶというのは、もしかするとナショナリズムを煽るためにやってるんじゃないかと思った。
こんな明治の不平等条約みたいなことやって、どうするんだろうと。
しかし、グアム移転協定に関しては全然批判が広がらない。
終わった話になってしまっているが、この協定は今でも変だ。
この後、どうするのか。
鳩山さんは何をしたいのか。
「緊密で対等な」ってたぶん本音なんだろうと思う。
べつに縁を切るつもりもない。
ただ、これまでみたいに、ひたすらアメリカについていけばよいというものでもない。
では、その間のどこで落とすか、というのがたぶん具体的に決められない、ということなのではないか。
聞き手:最後に、肝心の辺野古の話。
最近になってようやく、「辺野古計画は心肺停止だ」とか「辺野古計画は実質死んでいる」みたいな官僚のボヤキが新聞に出るようになったが、ぜんぜん遅すぎる。
本当は、夏の衆院選で沖縄4選挙区が全部ひっくり返った瞬間に辺野古計画は死んだ、というのが事実認定として正しかった。
本当いうと、前から実は完全に行き詰まっていた。
これまた最近になって言われているのでおかしいのだが、「解けない方程式」とか「連立方程式だ」みたいな。
事実は、自民党がV字を決めた段階に至るまでにすでに完全に「解」のない方程式で、式自体を入れ替えない限り、解けなかった。
それがようやく、死んでいるということがだんだん知られて来つつある。
13年間着々と進んできて、あと一歩のところで反古にしちゃっていいのか、というようなことを今、自民党とか新聞とかが言う。
でも、そんなこと全然なくて、13年間、積んでは崩れ、積んでは崩れ、積んでは崩れしてきたもの。
結局、県内に移設するということには、大きく3つぐらい制約条件がある。
一つは、政治的な正当性をどう調達するか。
もう一つは、住民と自然環境への影響というファクター。
もう一つは、技術的なファクターがある。
これらは、どれかを立てればどれかが沈む。
というか、どこかを叩くとどこかが飛び出るという話で、絶対に収まらなかった。
別の例えでは、いっぱいに水が入っているコップに、もう一杯分水を注ごうみたいな話。
何滴かであれば表面張力で何とかもつかもしれないが、もう一杯分が入れられるというのは手品か錬金術で、まともな政治の言語ではなかった。
ということを大メディアがちゃんと書いてこなかったので、今に至るまで共有されていないという問題。
メガフロートは技術的に無理だった。
沖合埋め立ても、政治的な正当性を手当てしているうちに、技術的に難しくなり、環境への影響も飛び出た。
そこで、守屋さんなんかは、抵抗を排除できるから「実行可能」だと言って沿岸に寄せたが、今度は政治的な正当性が回復不可能なまでに傷ついた。
その結果、自民党は沖縄でぼろ負けした。
じゃあ強権で進められるか。
「友愛」政治が、死人も出して埋め立てができるのか。
これはできない。
連立が崩壊するとかいうレベルではなく、今回の政権交代への国民の負託の意味合いから考えて、絶対にできない。
一方で、「アメとムチ」の「アメ」はもはや原資がほぼ尽きているし、今度は利権による誘導が政権の正当性を崩すので、やはりできない。
結局、誰も彼も思慮が浅いというか、県内移設という事柄の全体的な難しさがまともに理解されていない。
いまだにV字を「現行案」などと呼び、「現行案で年内に決断を」などと書いてきたメディアは、現実を直視した方がいい。
少しでも政治というものが分かっている人間なら、恥ずかしくて書けないような浅はかさだ。
V字は、すでに完成と運用に至る可能性がゼロになった「過去案」であって、現状は単に文書としての「日米合意」が残っているだけ。
名護市長選で現職が勝とうが負けようが、この評価は変わらない。
単に、V字が不可能だと理解される時点が遅くなるか早まるか、それまでの間に費やされる金と人々の疲れが増すかどうか、というだけの問題だ。
佐藤学:先日、ダグラス・ラミスさんが言っていたこと。
沖縄は太平洋のキーストーンだと言われる。
要石って何かというと、石積みでアーチを造るときに扇形に組んでいく。
その真ん中に要石というのを積む。
この要石に周りから重みがかかるので、倒れない。
ペンシルバニア州はキーストーン・ステイト。
独立したときの13州の真ん中にあるから。
沖縄の自民党が基地受け入れを容認する立場でやってきたのは、このキーストーンが効いていた。
これは何かというと、公共事業の予算。
好き好んで新しい基地を造りたいって人はあまりいない。
しかし、仕事の元となる予算が来るということで、つないできた。
これが細っていって、このキーストーンが落ちちゃったか、もう落ちる寸前。
そうするとこの構造はもうもたない。
だから、自民党県連が「普天間の県外移設」を言ったり、翁長市長が11月の県民大会で共同代表になる。
それは、その部分の状況が変わったということだと思う。
基地を受け入れたところで、この後どんどん沖縄に金が落ちてくる状況はない。
日本政府の財政はとんでもないことになっていて、いま国と地方とあわせて借金の総額が900兆円。
日本のGDPのいま、約1.9倍。
ということは日本の国民が1年間に生み出す経済的な産出のほぼ2倍の借金を抱えている。
先進国、欧州とか見たときに、一番高いのがイタリアで、だいたい100%ぐらい。
ほかは60%、50%ぐらい。
EUの加盟条件としてこれを下げないというのがあったので。
イタリアはずっと140%ぐらいだったのを、ずいぶんここまで下げた。
日本は国際的に見たら、とんでもない借金の国で、もう倒れる国。
では、なんで倒れないのかというと、国民の金融資産というのが1400兆円とか1500兆円とか諸説あるが、まだ500兆円分ぐらい国内に貯金があると。
日本の借金というのは、93%を国内で調達しているそうです。
これをもしも外国から借りていたら、取り引きできないとなって、利息がバーンと上がって、やっていけない。
まだこういう余裕があるので、余裕をこいているわけだが。
小泉さんを評価するのは、彼はこの借金を減らそうとしたわけです。
大雑把にいって日本は、年間で85兆円政府が使う。
税収は50兆円しかない。
35兆円分ぐらい、国債発行という形で借金している。
小泉さんは、とりあえずこれを30兆円以内にすると。
2012年までにはプラスマイナスゼロにするということでいろいろやっていた。
いまどうなったか。
今度の補正予算で赤字国債発行額が55兆円。
どっと増えた。
そうすると、OECDの調査か、2019年には日本の借金総額は日本の金融資産総額を超えると。
そうすると、日本は本当に借金財政。
いまも借金をいっぱいしているが、10年すると、親の遺産もなくなる。
そうすると、どうなるか。
もう外国も金を貸してくれない。
そういう国なので、なかなか公共工事の予算を増やせるわけがない。
なぜ今年の予算が赤字が増えたかというと、経済がやばいのでいっぱい使うと。
民主党がまた嘘ついたのは、予算を組み替えればいくらでも新しいお金が出てくると。
そんなこと、できるわけがない。
できないのは、仕分けでよく分かったわけです。
そうすると、もっと激烈な歳出の削減をしなければ日本は倒れてしまう。
という中で、沖縄だけが基地を受け入れるからどんどん工事をあげましょうね、という、そんな原資がどこにあるかと。
この構造が変わってしまったので、辺野古の新基地建設を受け入れれば、その後ずっとお金が来ると思っていた方たちが、どうもそうじゃないんじゃないかと思い始めた。
それと、4年でしょ、この工事。
4年先はどうするのか。
聞き手:4年間食べられれば、ということだと思う。
ただ、やはりその「アメとムチ」が使いにくくなった、使えなくなったというのが、今後も県内移設を進めるうえでの最大のネック。
そういうインセンティブがなければ、受け入れるメリットなんて何もない。
ということが、名護市長選挙にはたらいてくるかどうか。
【質疑応答】
Q:沖縄に米軍基地を集中させる理由に、「地政学的事情」がよく言われる。だが、軍の技術革新もあるし、「脅威」の変化もある。もはや「地政学的事情」は破綻したとみるべきか。
佐藤学:時代が変わるに従って、地政学的な意味も変わる。
ベトナム戦争を肯定するわけではないが、ベトナム戦争のときのアメリカの理屈から考えると、アメリカにとっては地政学的に重要な基地であったと。
朝鮮戦争のときに、沖縄に基地があったこと、また九州に基地があったこともアメリカにとって、また西側同盟国にとっての地政学的意味があったというのは否定できない。
ここから足の長いB52を飛ばせばベトナムに爆弾を落とせた。
日本がアメリカの安定した同盟国であり、周辺では共産革命があって政権が倒されたりしているので、ここに地政学的な意味があったことは間違いないとは思う。
しかし、いまそのイメージのままの地政学的な重要性があるかというと、ぜんぜん話が違う。
日本は、アメリカが中国と対立するとか言うんだけど、オバマが11月に来たとき、「アメリカは中国を封じ込めない」と言った。
かつてソ連への封じ込め政策というのがあった。
ジョージ・ケナンという人が書いた論文が元になった「containment(封じ込め)」。
オバマは今回、同じ言葉をわざわざ使って、「We don’t intend to contain China.(私たちは中国を封じ込めない)」と言っている。
それは、別に中国がいい国家になったとかではなくて、国レベルでは中国はぜんぜん民主的ではない。
でも、なんでアメリカは中国と対決しないかというと、対決できないから。
中国はいま、アメリカの国債を買う額では世界一。
これはずっと日本が一番だった。
日本の経済がよかったころは、日本がアメリカのものを売って儲けた金を、アメリカの国債を買って戻してやる。
そういう還流の仕組みがあった。
日本経済が沈んで、代わりに中国がアメリカにものを売る。
アメリカではいま、何でもかんでも中国製。
中国が世界の工場になって、アメリカに売る日用品で中国はすごく儲けている。
それで米国債購入額で世界一。
それから、世界の外貨準備高の65%はドル、25%がユーロだそうだが、中国はドルを溜め込んでいる。
いま中国の外貨準備高が2兆ドルを超えた。
史上初めて2兆ドル以上のドルを溜め込んだ国になった。
中国の自動車販売台数は世界一だったが、今年は製造台数でも世界一になった。
もちろん中国の会社とアメリカ、欧州、日本などとの合弁だったりするが、とにかく国内での製造台数で世界一になった。
販売台数は日本の3倍ぐらいだったか、とにかくすごい規模の市場になった。
あるいはコンピュータ産業。
PCってもともとはIBMの商標だった。
ところがIBMの一般市場向けコンピュータ部門は中国のレノボに売ってしまった。
中国経済は技術を向上させて回っていて、前のように安い人件費ばかりでやっているわけではない。
そうすると、アメリカと中国の経済関係は、戦争をしたくてもできないことになってしまった。
これはそんなに古い話ではない。
77年に鄧小平が実権を握る。
この人は経済改革派。
外国の投資を呼び込み、貿易をする。
77年から開放経済政策。
しかし、89年に天安門事件。
そのとき何が起きたか。
西側諸国は中国から投資を引き上げる。
そのあと2年ほど、中国経済は底に沈む。
しかし、鄧小平は、西側の資本主義諸国は中国の市場を絶対に見捨てない、と言っていた。
結局、その鄧小平の言った通りになる。
92年に鄧小平が「南方講話」。
それまで路線対立があったが、92年に開放政策に戻した。
以後、中国経済は今に至るまで高度成長を続けている。
上海の開発なんて、95年ぐらいまで日本ではうまくいくはずないと言われていた。
高層ビル建てても、内実が伴わないから、バブルで潰れまくると。
しかし、潰れない。
潰れないまま今に至る。
95年以降、今までで中国経済の役割とか位置というのは全然変わってしまった。
そうすると、中国とアメリカが戦争するという想定は、もうありえない。
あとは台湾問題だけ。
これはナショナリズムの問題なので、合理性を超えたところで戦争するかもしれない。
それさえ抑えておけば、戦争するわけがない。
国際関係を見るときに、一つの立場でリアリズムの立場がある。
たとえば軍事力、軍事対決、力の関係がどうなっているのかというのを物差しとして測る立場。
この立場の人たちが今も、米中戦争みたいなことがあるから、と言っている。
しかし、彼らは、ソ連の崩壊を完全に予測し損ねた。
要するに、ソビエトが崩壊するってことを考えられなかった。
ソビエトは崩壊した後だって核兵器をいっぱい持って軍隊の強い国。
しかし、別の立場、たとえば相互依存という考え方があって、経済がどうなっているかを見る立場からすると米ソが戦争することはまずないだろうとずっと言われていた。
82年に自分は東ベルリンへ行った。
そのとき、これは続かない、東側は潰れると思った。
東ベルリンは東側の一番進んでいた国の首都。
西ベルリンは消費文化を満喫している。
でも、東ベルリンに行くと、何もない。
どう考えても、すぐ隣で大騒ぎしてネオンがぴかぴかしている横で、東ベルリンの一番のデパートに何も物がない。
だから、国際関係を見るときに、軍事力だけ見ていると、この人たちはすでにソ連の崩壊を見逃したという前科がある。
米中が戦争する、という話をしている人たちは、経済の部分を見ていない。
損しても戦争をやる、ということはあるわけです。
ナショナリズムの問題では、損を覚悟でやる。
台湾が独立を宣言すれば、それは中国は戦争するでしょう。
だからブッシュは一生懸命、台湾の独立派を抑えた。
だから、ぜんぜん可能性がないわけではない。
だけど、そのときに地政学的に沖縄に海兵隊がいることの意味はない。
関係ない。
何もできない。
あるいは、近すぎて。
だから、沖縄の「地政学的な重要性」というのは、いまの世界の中で想定されるような軍事対立というものがあるとして、それに対応した地理的な政治的な位置にあるかと言えば、ない。
Q:潜水艦や攻撃機が優秀になったから、沖縄はキーストーンではなくなった、といえるのか。
佐藤学:たとえば、中国と戦争するとして、どういう戦争なのか。
本当に世界戦争をするならば、アメリカは91年の湾岸戦争のような動員をかける。
それは、沖縄どうこうではない。
沖縄の補給基地を使うことはあるだろうが、ここに何十万人もの兵力は置けない。
湾岸戦争のときは何ヶ月もかけて、最終的には50万人を大動員する。
中国と本当に全面戦争をするとするならば、一つはアメリカはミサイルをどんどん撃つ。
ミサイルを撃つ戦争になる。
もしも攻めていく、とすると、何のために攻めるか。
中国を占領する意味はないので、陸軍を動員して、あるいは海兵隊で中国に攻め入るというのは、やる意味がないので、たぶんやらない。
ソビエトとの対立のころは、日本ではソ連が北海道に攻めてくると言われていたが、北海道はすでに80年代に経済がガタガタだったので、ソ連が占領しても意味がなかった。
いまから中国と戦争をするとしても、とにかく兵力をぶち込んでということにはならない。
独裁者が一人、フセインがいて、それを叩かないといけないという戦争にはならない。
中国は、アメリカの陸軍が上陸しても怖くない。
中国が恐れるのは、遠くから沿岸部の発展した都市を叩かれたら、困ってしまう。
マイケル・オハンロンという軍事研究者が5~6年に言っていたが、中国が沿岸部を高度成長させたので、弱いところ、腹をさらしてしまっていると。
だから、中国自身が怖くて戦争なんかできないと。
昔は、1億人殺されても3億人います、みたいなことを毛沢東が言っていた。
マッカーサーが朝鮮戦争のときに中国に原爆を落とす、みたいに言っても、落としても構わないよ、みたいなことを言っていた。
それは中国の人口のほとんどが当時は貧しい農民で、この人たちは失うものがない。
だから、次から次へ兵隊が沸いて出てくるというので、朝鮮戦争でアメリカは相当怖かった。
いまの中国はそうではない。
失うものがこれだけ増えてしまった中国に対して戦争をするとすれば、ミサイルを撃つ、また足の長い爆撃機を飛ばす。
ここ嘉手納から爆撃機を飛ばすだけで十分なわけ。
そういう戦争を本当にするのかと言えば、やった後どうするのかという話。
だから、あまりないと思うが。
Q:川上教授らの話は、沖縄にはガス田がある。向こうが高圧的に出てきたときにどうするのか、バックに軍事力がないといけないのでは、という話。
佐藤学:いま、日米安保をやめるという話にはなっていない。
民主党もそんなこと言ってないし、選挙でもそんなことにはなっていない。
ということは、嘉手納基地というのは、当分続く。
嘉手納をなくす話は、残念ながら全然ないですから。
長期的には嘉手納もなくす方向にしていきたいとは思うが。
それで、いま問題になっているのは、普天間基地の海兵隊をどうするか。
普天間の海兵隊がいなくなったから、中国が尖閣を獲りに来る、という理屈は立たない。
その辺をない交ぜにして、脅している。
「普天間を閉じて、海兵隊がいなくなると、中国が尖閣を獲りに来たときどうするのか」と。
そもそも、中国が尖閣を獲りに来たとき海兵隊は何もできない。
海兵隊の仕事ではないから。
もう一つは、嘉手納基地は残るし、第七艦隊は横須賀にいる。
中国がそれを覚悟のうえで、沖縄に海兵隊がいないから尖閣を獲ってやろうと来るか。
そんなことはしない。
海兵隊が必要だから、新しい基地を貢ぎましょうという話に、もう間違いなく有効性はない。
さらに。
かりに中国が尖閣を獲りに来るとして、そのときに、アメリカが本気で日本の代わりに戦争しましょうということにはならない。
アメリカ国民は、そんな戦争を支持しない。
実際に、戦争をするわけはない。
もう一つガス田、油田。
中国と日本で本当に戦争して取り合いをするのか。
そういう選択肢はない。
ましてや尖閣を巡って、海上自衛隊と中国海軍がやり合ったとする。
にらみ合いするだけで、沖縄の観光客はゼロになる。
そんな危ないところに誰が観光に来るか。
要するに、そういう状況になってしまったら大変なので、そこは交渉していくしかないわけ。
アメリカいなくなれ、という話でもない。
東アジア共同体でも、アメリカは入っていた方がいいと思うし。
軍事力も入ってなきゃいけないでしょう、というなら、嘉手納基地があるからいいじゃないかと。
だから、辺野古は関係ない。
Q:有事のとき、海兵隊が戦いに行けば有益じゃないか、と言われるが。
佐藤学:そもそも海兵隊は沖縄にいないことが多い。
ローテーションであちこち回っている。
沖縄が空き家であることがよくある。
また、ここから直接、海兵隊は戦争に行っていない。
佐世保に行くなり、船をホワイトビーチに持ってきて、それで行くと。
岡田外相が、「海兵隊は機動部隊だから沖縄にいるのが抑止力」だ」と。
しかし、いまここにいなければ、半日ぐらいの時間も惜しいような戦争、しかも海兵隊が解決できるような戦争ってのが想定できるか。
それは、どういう戦争か。
考えつかない。
北朝鮮の「脅威」がある、中国と対峙しなければいけない、だから沖縄に海兵隊基地が必要だ、という言い方になっている。
問題は、どうやって海兵隊がそれをするのか。
朝日新聞の12月16日の社説も論説委員の文章も同じことを言っているが、そこで海兵隊がどう役に立つのかは書いてない。
Q:川上教授は、韓国が攻められたら、日本人やアメリカ人を助けに行くんだと。それで有益なんだと。
佐藤学:それは、「抑止力」ではない。
そういうことをさせないための脅しが「抑止力」。
災害救助とか邦人救出とかは、抑止と関係ない。
だいたい海兵隊が日本人を救出に行くかは疑問。
たとえば、北朝鮮が韓国に攻めてきたとして、そのときに日本人だけどうやって呼び出して、どうやって海兵隊が運んでくるか。
それはできない相談だ。
かりに北朝鮮が韓国に攻め込んでいるとするならば、それはもう戦争状態。
戦争状態になっている中で、海兵隊が入っていって、「日本人いますか」と言って日本人だけ救出するって、どうやってするのか。
ありえない。
なんとなく、海兵隊がいれば助けに来てくれる、っていう気分だけだと思う。
Q:それでも、海兵隊が助けに来ない、とは言い切れない。
佐藤学:米軍は韓国の駐留の数を減らしたが、基地を統合して、まだ米軍が韓国に大きな基地を持っている。
米軍は韓国にまだいっぱいいる。
さらに、韓国国軍というのはむちゃくちゃ強い。
そうすると、邦人救出で沖縄から海兵隊が1000人、2000人行きますというよりは、韓国国軍が北朝鮮軍と戦う方が遥かに有効な話。
韓国軍は徴兵制で強い。
北朝鮮が攻めてきたとき、韓国軍と米軍が共同作戦をしているときに、沖縄の海兵隊がいないと邦人救出できないという理屈は立たない。
そもそも北朝鮮と韓国が本当に全面戦争をやるかというと、ありえない。
部分的な衝突はあるかもしれないが、全面戦争はない。
川上教授は「辺野古ありき」なので。
Q:北朝鮮がロケットや核を持っているので、問題。
佐藤学:そのときに、沖縄に何千人か海兵隊がいてどうなるものでもない。
朝鮮戦争の再現になる話だから。
そしたら、本当に核兵器を使うとか、やけっぱちでソウルに攻め込むという話になるなら。
日本には攻めてこれないと思うが。
北朝鮮がロケットを飛ばすことに対しては、海兵隊は何もできない。
だから、北朝鮮が韓国に攻めてくることに対して、沖縄の海兵隊が行ったからどうなるものでもない。
それは海兵隊の装備としてもそんなことできない。
むしろ、北朝鮮が攻めてくるのに対して必要だというなら、在韓米軍を減らす必要がなかった。
在韓米軍を減らしたのは、その可能性が低くなったから。
もちろん北朝鮮は一生懸命、何とかミサイルを飛ばして、脅しをして、政権を維持しようとしている。
だからといって、いま北朝鮮を潰して困るのは韓国。
韓国がいま北朝鮮が潰れたのを吸収するのは無理。
東ドイツと西ドイツが統一して20年たつが、まだ旧東ドイツ部分の経済が足を引っ張っている。
失業率とか。
西ドイツと東ドイツの人口比が6:1.
東ドイツは共産圏で経済が一番進んでいた。
それでも、20年かかってもちゃんと統合できていない。
韓国と北朝鮮の人口比は2:1か、2.5:1ぐらいか。
北朝鮮経済は崩壊しているので、韓国が抱えられるわけがない。
やけっぱちでどうこうした結果として、北朝鮮を吸収しますとなったとき、一番困るのが韓国。
もしも本当に北朝鮮の脅威がそんなにやばいなら、韓国がもっと大騒ぎしてないとおかしい。
とにかく北朝鮮が金を引き出そうとしていることが、みんな分かっているから。
そうかといって、北朝鮮が平和交渉で核を諦めるか。
核を諦めた途端に、北朝鮮は脅す材料がなくなる。
なので、しょうがないけれど、そういう形で潰さないで、だけどむちゃくちゃさせないようにと当分、やっていくしかないんじゃないかと。
聞き手:軍事について、基本的な常識を日本国民はこれまで幸か不幸か考えずに済んでいたところがある。
そうすると、「抑止力」と言われた瞬間に、思考停止してしまう。
それ以上、考える材料を持っていない。
問題は、保険の掛け替えみたいな話。
今までは保険会社の言い値で、聞いたこともないような100万人に1人しかかからない難病にかかったら困るじゃないかと脅されて、毎月3万5千円ぐらいの保険料をたかられている。
しかし、ここに賢いファイナンシャル・プランナーがいれば、「いやいや100万人に1人の難病特約は要らないよ」と。
「もうちょっとリーズナブルな、JA共済ぐらいのものがあるんじゃないか」という話を、今から海兵隊について、した方がいいのだろう。
佐藤学:大きな話も当然考えていかなきゃいけないが、いまは普天間基地をどうするのか、そこにいる海兵隊をどうするのか、に限定した話だと思う。
もしも本当に沖縄の海兵隊が東アジアの安全にものすごく大きいものならば、辺野古基地なんかは強権を使って、とっくに造っているはず。
Q:保守的な軍事評論家なんかは、「辺野古がなくなると、安保条約に問題が出てくる」という話になる。
「北朝鮮が撃ったら日本は何ができるか」と。
「できないなら、アメリカに助けてもらうんでしょ」と。
「そのためには、大きな基地がないとダメでしょ」と。
佐藤学:北朝鮮が沖縄に核ミサイルを撃つ必要はない。
どう考えても、東京に撃つ。
本当にもしも東京がそんなに危ないならば、こんなにのんきに東京に冨を集中しているのはおかしい。
そこが本当に大変な話ならば、東京の機能分散を強権的にやってなければいけない。
北朝鮮が本当に現実的な脅威ならば、東京がこういう状況なのはまったくおかしい。
国家と経済の機能を分散して、仮にどこかがやられても持ちこたえられるようにしていなければ、防衛の体をなさない。
本当に危ないなら、アメリカに助けてもらいましょうということの前に、東京の分散をやってなければ。
Q:沖縄が軍事的なキーストーンではない、と言えるか。
佐藤学:そう思います。
嘉手納基地も本当は要らない。
だけど、国民の多くが基地が全部なくなったらヤバイと考えている中で、県民の中にも基地が全部なくなったらヤバイと考えている人が多いだろう。
だから、今すぐ全部の基地をなくしましょうという話を言うと、たぶん逆効果になってしまう。
要するに、反動がきてしまうのが怖い。
いま戦争なんかあるわけないと思うし、嘉手納があっても使うことはないと思うが、置いておくだけ、見せるものとして置いておけばいいだろうという話。
だから、聞いてくれない人に聞いてもらうためにも、話の順番立てをしているつもり。
Q:米軍再編の中では、大きな流れとして、海外にある基地をなるべく米国内に持っていこうという動きがあった。
しかし、在日米軍再編では、一応こちらの報道では、アメリカとしては強硬に今まで通りやれ、と言っている。
メアさんとか国務省の一部の人たちの考えかもしれないが、日本ではそういう報道になっていない。
オバマもそれについて明確に何か言っていない。
海兵隊が沖縄にいるメリットがぜんぜんないならば、なぜアメリカは執拗に今の案にこだわっているのか。
佐藤学:一つは、やはりこれまでの関係が、アメリカにとって居心地がいいというか、使い勝手のいいものだった。
こちらの方で、向こうの立場を忖度して、気に入られるようなことをやってきたわけだから。
密約問題なんてまさにそう。
そうすると、そういう関係を続けたいと思うに決まっている。
とくに日本担当者の間では、変えたくないわけですよ。
日本が独自の判断でどうのこうの、対等な関係なんて面倒くさい。
一度決めてしまったものは造れ、というのは、これまで通りの日米関係がいいという意思表示。
オバマは、最近になってさすがに話が上がってきているでしょうけど、おそらく鳩山政権になってしばらくは、普天間の話なんて聞いたことぐらいはあるだろうが、ほとんど考えたことがない、認識がなかったはず。
というのは、アフガニスタンの問題。
それから国内では医療保険制度改革が大変なことになっていて、これでもう頭がいっぱい。
アジアでは対中関係をどうするか。
温暖化の問題をどうするか。
もう一つは、経済。
外交では、ずっと続いている中東問題。
そうすると、日米関係の中の、それまた一部分の辺野古の基地の問題を、オバマが考えて指示を出すという状況、段階ではなかったはず。
普通なら、ない。
だから、鳩山が直接会談までに方針を決めて、直接働きかければ、というのは、そういう期待だった。
オバマは、少なくとも環境に関してブッシュとは違うことを一生懸命やろうとしているから。
Q:そこを、日本の官僚もやろうとしなかったのは、政権交代しても官僚が代わっていないというのがあるから、官僚たちもそういうことを一切考えない。
佐藤学:官僚にとって、日本がアメリカに楯突くって、考えられないこと。
オバマ来日が決まったころ、10月の半ばか。
外務省の人たちと話してきた人の話では、とにかくオバマがアジアで最初に日本に来る、というのでみんな万歳したと。
中国でもない、韓国でもない、素通りしない。
とにかく日本に最初に来たのが大成果だと。
巡幸ですね。
そういう発想なわけ。
来ていただいたってことで、万歳してたと。
アメリカを通じてしか世界と付き合って来なかった。
日本の世界に開いた窓って、アメリカを通じてしかない。
アメリカの意向というのが、怖くて怖くてしょうがない。
だから、アメリカと結んだ条約を変える、なんてことは考えられない。
というのが外務省なり防衛省なりの立場なんじゃないか。
ほんとにそれでいいのか。
日米関係にこれまで不都合があったのか。
日米関係で問題なんかないじゃないか。
そんなことを言っている人がいて、全体としては日米関係は何も問題ないんだから、沖縄ごちゃごちゃ言うな、という話にまとめたいんですよ、彼らは。
聞き手:米軍再編のロードマップとグアム移転協定というのは、アメリカ政府内の公約数としては、軍事的にどうするこうするという取り決めであるよりも、日本政府がアメリカ軍のために1兆円ぐらいのお金を出す、という協定として認識されている。
ディテールは実はどうでもいいというところがあって、金の拠出だけはしっかり確保すること。
これが「トラスト・ミー」の中味だと思うが。
佐藤学:やり方を変えるというのは、誰だって怖くて嫌。
ましてやアメリカは怖いとみんな思っているわけだから。
もしこれで鳩山さんが献金問題かなんかで辞任でもさせられた日には、アメリカに逆らったら、日本の総理大臣の首が飛ぶというのは、もう確信になってしまう。
これ、馬鹿な話でね。
陰謀説の類。
アメリカにそんな力があるんだったら、イラクとかアフガニスタンの政府をもっといいように操作できているはずで、それができないから困っているわけ。
日本の政府というのは、アメリカがつくった傀儡政権であるところのイラクとかアフガンの政府よりも、もっとアメリカにとって使いやすいと。
もっと言うことをきく政府で、何でもできると。
こんな馬鹿な話が、どこにあるかと思うが。
北朝鮮にアメリカが特使を送った。
6カ国協議への復帰を呼びかける、交渉すると。
でも、辺野古のことに関しては日本とは交渉しない、と。
交渉の必要はない、と。
これは何かというと、日本は北朝鮮より低いものとして扱われている。
まあ、「北朝鮮は核持っているからでしょう」となるが。
こんなにアメリカを怖がる必要が、どこにあるのかと思う。
日本人は、アメリカの政治というものを一枚岩でしか見ていない。
第二次大戦中に、日系アメリカ人は全員が強制収用された。
そうすると、日系アメリカ人たちが、日本のためにアメリカ国内で政府に働きかけるということができない。
心理的、社会的にできない。
なぜなら、戦時中に日系アメリカ人は、潜在的なスパイであると言われた。
だから、日系アメリカ人には、アメリカのために忠誠を尽くさないといけないという強烈な圧力がかかった。
そうすると、日系アメリカ人たちが日本の政府のためのロビイストとして政府に働きかける、仲介するということがない。
80年代に日米貿易摩擦が過熱したとき、日系アメリカ人の法律家とかが日本の利益ために何かするということは皆無だった。
ほぼどの国でも、移民がいて、その人たちがアメリカ人になっている場合、その人たちは自分の出身の国、父母の出身の国の利益のためにアメリカ政治の中で役割を果たす。
そうすると、アメリカ政治の過程を内側から見ることができる。
日本はそれができない。
アメリカの政治過程を、あくまでも外側からしか見られない。
それで一枚岩に見える。
でも、アメリカ政府といっても、アメリカの政治というのは、ものすごく決定の過程がいい意味でも悪い意味でもオープンになっている。
オバマがこうしたい、と言ったからといっても、議会が通すという保証はぜんぜんない。
医療保険制度もそう。
民主党が上下院の多数を持っているが、オバマが本来やろうとした医療保険改革はできない。
ものすごい妥協案を出しているが、それでも民主党の中で反対論がある。
どうしてか。
アメリカは大統領と議会が別々に選ばれる。
民主党の議員でも議会の議決で大統領の政策を支持する義務はない。
反対したからといって、党から懲戒を受けるわけでもないし、小泉さんがやったみたいに追放したりもできない。
それぞれの議員が自分の利益のために、自分の選挙を有利にするために、いろんなことができる。
そこのところに、働きかける窓口がいっぱいある。
アメリカの政府の政策が決まっていく過程には、途中でいろんな影響を与える機会がある。
ところが、日本はこれが分からない。
貿易摩擦のとき、日本は分からないから、アメリカの弁護士にものすごい高い金を払ってロビー活動してもらって、ぜんぜん役に立たなかった。
笑いものになった。
それが変わっていない。
なので、アメリカが決めたことです、といっても。
日本のイメージで、国会が決めること、内閣が決めること、これは一緒。
でも、アメリカはそうではない。
グアム移転協定も、アメリカ側は40億ドル出すと書いてあるが、これは議会で議決してないから、別に議会はこんなもの出す必要はない。
何も担保はない。
今回、「アメリカの議会がこれに予算をつけないかもしれない。それは日本が決めないからだ。懲罰だ」と報道するが、そんな話ではない。
アメリカの方は自分の手を縛りたくないから、グアム移転協定を議会の議決にかけなかった。
条約にしなかった。
上院の可決、あるいは下院の可決を経なかった。
だから、行政協定といって、大統領側がつくっただけの話。
議会の裏づけがないというのはどういうことか。
予算を決められるのは議会だけ。
そうすると、40億ドル出すといっても、議会が決めてないんだから、何の意味もない。
それが分かっていない。
さらには。
アメリカの中では、軍事予算もほかの予算との取り合いの中で決まって、またその軍事予算の中でもいろんな取り合いの中で、たとえばグアムへの建設費用も出てくる。
そうすると、この40億ドルというのをグアムが獲ってしまえば、ほかの部分の軍事予算がそれだけ減る。
グアムは、アメリカの議会に正式の議員を送っていない。
アメリカの領土だが、大統領選の投票権はないし、議会に送っている議員は投票権を持たない。
そうすると、グアムに積極的に予算をつける政治的な力は、ない。
そうすると、アメリカは、なんやかんや言って、自分たちで出すはずの40億ドル出せませんでしたから、日本が出してちょうだいという話にたぶんなるだろうというので、「トラスト・ミー」の話につながる。
協定の国会審議でも、おそらくアメリカの政府の中で予算がどう決まるかが分かってない中で、いかにこれが不平等で片務的な協定であるかが分かっていなかった。
Q:こないだ岡田さんが名護に来て言っていたのは、「米国と交渉してきたが難しい」と。
「日米合意は前政権が結んだものだが、いろんな経緯があってできたもので、政権が変わったからといってすぐに変えられない」という言い訳を延々としてきた。
ただ、彼は、あそこまでみんなが一致して反対の声が上がるとは思っていなかったのではないか。
それが今度の鳩山さんの先送り決定に影響しているのではないか。
聞き手:実際、岡田外相は、けっこうショックを受けていた節がある。